この辺の田んぼは、山の斜面に連なる田んぼ、いわゆる棚田がほとんどです。
春夏秋冬それぞれの風景や、朝夕で異なって見える表情もとても美しい。
今の季節は、高い田んぼの畦から見下ろすと、さわ〜ってなびく緑の稲に、吹く風の道が見えて、ほーんときれいです。
ただこの山中の棚田で難しいのが、命ともいえる水の扱い。
平野の田んぼなら用水路が整備されてあって、川などからポンプで水を汲み上げ、水門の蛇口のようなハンドルをひねれば水が一斉に田に入る仕掛けになっているのかな。
でも、ここでは、山から湧き出る水を沢や水路に集め、ホースを使って田の中にいれます。
斜面を流れる水路の底に土のうや粘土質の泥を置き、ホースとその周りをしっかり固めて、水をせき止め、漏れてホースに入らなかったり、ホース自体が流されたりしないように固定します。
水は、山の上の方から下の方に流れるのはあたりまえで、下の方に流れ落ちてしまった水は、もう上にはあげられないものね。
さらに、水が豊富な時期はまだしも、日照りが続いて水が乏しくなる時期はもう大変。
ちょろちょろと湧き流れてくる水を集めて、やっとでホースに入れて、田にかけてあげる感じ、一滴の水も無駄にしたくないものです。
なので、山に田がいくつも連なる場合には、たいがいどこかに堤(つつみ)と呼ばれるため池がつくってあり、水の豊富な時期にはそこに水をため、水がない時期にはそこから水を田に流し入れる、という仕掛けがなされています。
で、先日、農家の先生に問題が出されました。
堤にたまっている水を、ホースを使ってその下の田んぼにいれなさい、と。
簡単なことと思います??
問題は、堤の周りの少し高い土手(堤の周りは水がもれないようにもんじゃ焼きみたいな少し高い土手になってる)を越えてから下の田に流さないといけないこと。。
ホースの水は、高いところから低いところには簡単に流れるけど、低いところ(水面)から高いところ(土手)を越えるために上っていくなんて、エンジンなどの動力がない限り、できないでしょう。
いや、昔、父親が金魚の水槽の水を交換するとき、水槽の水に入れたチューブを一瞬だけ口で吸ってその勢いで水流をつくり下のバケツに流し出す、ということをやってたのを思い出し、
ホースを口で吸ってみたりして、、、、いやいや、チューブみたいな細いものだったらまだしも直径3cm〜5cm ✕ 長さ10mもあるホースでそんなことはできません。
悪戦苦闘した末、タイムアップ。
馬鹿さを見かねた先生がこうやるんだ!って教えてくれたのが、こうです。
1)土手に立って、提側のホースの先を自分で持ち、もう一方のホースの先を下の田んぼに入るように置く。
2)肥料が入ってるような大きくて丈夫なビニール袋を用意し、その中にできるだけたくさん水を入れる。
3)水を入れた袋に自分が持ってるホースの先を突っ込み、手で掴んで袋の口を閉じる。
4)それっ!と、ホースの口が入った袋を逆さまにして、袋の中の水が一気にホースの中に流れ入ったら、
5)ザブーーーーン!と、間髪入れずに、ホースの先だけを堤にたまっている水の中につける。
6)すると、なんということでしょう!堤の水がホースから吸われて、土手を越え、止まることなく田んぼの中に入っているではありませんか!
すごい!!こんなことが起きるなんて。理科の時間でも、大学の授業でも習わなかったし、。。。(はずかしい。。)
ホースの密閉された空間の中に袋の水を流すと、水は後ろの空気を引っ張ろうとするから、その吸引力が生きているうちに堤の水につけると、堤の水を吸い込みだす。
で、一度できた水流は止まらずにずっと続くので、ホースの吸引口が上、排水口が下である限り(その間に土手があったとしても)、水は流れ続ける。
要するに、原理は父親がチューブを使って水槽の水を抜いていたのと同じことなのかな・・。
これって、農業技術云々の前にある世の常識なんだろうか。。
三十数年知らずに生きてきてしまった僕にとっては、自然の摂理だけを利用したものすごい叡智です。
すごいなぁ・・。もっともっといろいろ知らねばなぁ・・。
いくら棚田の風景が美しくとも、ぼぉっと眺めているだけではダメなんだとつくづく思った経験。