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“進化”の担い手としての子ども

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ヒトはいかにして人となったか―言語と脳の共進化


脳と言語が、相互作用によって双方がともに進化する「共進化」=言語を活用する人間の「脳の進化」と、人間の脳の淘汰圧によって起こる「言語自体の進化」。

子どもの脳が淘汰圧(言語を受け入れられる学習バイアス)となって、言語は選択されている。子どもの脳に難しい言語は採用されずに淘汰されていき、子どもにやさしい言語は生き残って、その結果として言語は進化に向かっているっていうこと。

人間(自分たち)がつかっている仕組みやシステムが、無生物だったり、無形のソフトや概念的なものだとしても、それ自体が進化しているという考え方はすごくおもしろい。

また、子ども(能力が未発達なもの、劣るもの)が、その仕組みやシステムを受け入れられるか利用できるかがそうした進化の鍵になるなら、子どもや劣るものこそがそうした仕組みやシステムの構築や進化の担い手であるということ。進化の担い手は必ずしも高度な技術や知識を持った大人や専門家でないということ。

■子どもの幼い脳による選択(淘汰圧)によって進化しそうなもの
・子どもの遊び・おもちゃ
・家の中の整理整頓の仕方や仕組み
・親のコミュニケーション、しつけの仕方や教え方


「子どもができないこと」とは、子どもが劣っているのではなく、実は子どもに受け入れられないそれ自体が未発達であるということ。




ヒトはいかにして人となったか―言語と脳の共進化』、テレンス・W. ディーコン、新曜社、1999年
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・われわれは言語をデザインすることは全くない。実は、言語は「自分で自分をデザイン」する。多くの世代を通して、言語は自発的に変化する。116

・子どもは言語を受け継ぐ主体であるから、言語は子どものしそうな推理にあうように強力な淘汰圧を受けている。言語は交信、学習、社会的関係、記号レファレンスすら含めて、すべて子どもの自発的な発想に適応しなければならない。・・子どもが言語を必要とするというよりは、言語が子どもを必要とするということ・・117

・言語構造は世代から世代へと伝わるときに、子供の心というボトルネックを通らねばならないが、これが言語に対する強い淘汰圧になる。言語は学習の難しいものよりは子どもが早く簡単に覚えやすい方が、次の世代によほど効率よく無傷で伝承される。118

・ある意味で言語をヒトの脳を宿主として寄生し繁殖する別の生命形態と考えるのも有益 120

・適応の風は脳の外に吹いていた 117

・生物学的変化は言語の変化よりはるかにゆっくりであり、・・言語進化は脳の進化より数千倍速い。117

・進化は必ずしも主体のみに起こるものではない。“主体の対象”も、主体に適応し、淘汰を経て、進化を繰り返す。

・突然変異、競合、淘汰 → 進化

・言語とウィルス:ウィルスは普通の意味での代謝や生殖の器官の痕跡もなく、生命と非生命の境界線にある。DNAやRNAの最小限のパッケージを有し、・・どちらかと言えば不活性の巨大分子の集合体であるが、それにもかかわらずその内的な情報は進化し、適応し、・・ このように見ると、構築的と破壊的との違いはあるけれども、言語をウィルスとかんがえるのはそんなに突飛なことではない。120

・世代から世代へと再生産され、新しく人がそれを学習し、複写し、エミュレートし、あるいは適応する過程で複製がくり返される。ここに生物進化におきえる組み換えと突然変異にも似た革新とエラーの潜在性があり、長い間には新しい変種が生まれる。この過程にバイアスが入り込み、自然淘汰が一定の遺伝的特性を好むのと同じように、何が複製され、何がされないかに影響する。124

・これらの複製された文化情報はさらに再生産の確率が増し、それ自身の再生産能力をもないものよりも、より長く続き、長い間にはより多くの個人に広がって使用される。何が将来の世代に伝えられ、何が伝えられないかは、これらのミームの効用と結果、その伝達モード(ヒトの心)のバイアスと文化的エコシステム(他のミームのシステム)の特異性などが影響する。124

・デジタル・コンピュータでは、ディスク情報が破損すれば、・・「クラッシュ」と言って破壊的である。しかし、ネットワークならば、素子や結線がランダムに破壊されても、その結果は 無的には滅多になくならない。ネットの場合は損傷の程度に応じて劣化する。このような行動の本質は、ネットが情報を全体のあらゆる部分に分散させるところにある。146

・ヒトの言語能力に生得的なのは、言語またはその構造の事前知識のようななにかではない。・・生得的な学習バイアスである。それは単に未熟以上にはるかに強力で、遍在的なバイアスである。159

・ヒトの学習の癖=バイアスが、言語を進化させてきた。

・大きな筋質量をもつ大きな動物は、四肢にそれだけの力を発揮させるが、高く飛んだり、早く走るとは限らない。大きな体軀は同じことをするにも大きな筋質量を必要とする。これはグロス(総量)な力とネット(正味)の力の違いである。グロスで言えば筋質量全体と相関するが、ネットは多くの他の要因がからむ。質量挙げはグロスな筋質量のよい目安になる。大きな筋質量をもった大きな体は、重い質量を持ち上げることができる。それに対してある種の体育運動は体重に対する一定の筋のネットな力の指標である。

・コンピュータのネットとグロス。大きさは伴わなくなった。筋力の肥大化、グロスの増量によりスピードは落ちる。

・体が小さなくなると時間も縮む。小さい動物は小さな肢を高速に動かして高速の運動フィードバックに反射的に応答している。さらに小動物は高い代謝率と最小の貯蔵エネルギーのために、獲物を襲うのに無駄なく即断直行しなくてはならない。もっとも重要な事は、短い一生であるから経験学習の時間は少なく、予めプログラムされた行動パターンで動く。それは環境的なプライミングや微調整をほとんど必要としない。181

大型動物はそんなに速くない反射で間に合い、性行動や襲撃行動も時に応じて変わり、観察や試行錯誤によって学習する十分な機会がある。長い寿命は予めプログラムされた行動よりは、学習と記憶にプレミアムを置く。長く生きて遠距離を移動すれば、環境の大きな変化にあうことが多い。・・大型の種は学習された情報を親から子へ伝え、また学習能力ある数少ない子に努力を集中する。他方、小型の種はプレプログラムされた行動パターンの多くの変化形をもった多数の子を産み、あとは自然淘汰に任せていろいろな適応をする。182

・適応の方法=経験学習の能力(寿命が長い大型動物) または、 多数の変化形の子孫(寿命が短い小型動物)
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プロフィール

 わたなべまさゆき

 新潟県在住。
 2012年の秋に東京から移転して来ました。
 現在、生活基盤構築中、農業研修中です。